【コラム第64回】 「新たな挑戦」への応援

 私の活動の拠点は地方都市の新潟です。34年前に創業して以来、新潟を中心に活動を行い、地域振興にも力を注いできました。

 地方都市が置かれている状況は、バブル経済の崩壊以降、急激に悪化しています。もともと地方都市は職が少なく、人が流出する傾向があります。ただでさえ少子高齢化が進んでいるのに、これに昨今のような経済の落ち込みが加わると本当にたいへんです。
 いまや全国の地方都市では、人口の50%以上が65歳以上の高齢者という「限界集落」が次々と生まれています。こういう場所では、このままの状態を放置していたら、近い将来、自治体として機能しなくなるのではないかと心配されています。

  地方が直面しているこうした困難な状況から脱するには、とにもかくにもまずは経済を活性化させるしかありません。人々の生活基盤をしっかりとしたものにしないと、人の流出は止まらないし、新しい人がよそから入ってくる動きもつくることができないからです。
  従来、この役割は公共事業が果たしていました。公共事業があることで地域にお金の循環がつくられていましたが、国と地方自治体の財政が破綻しつつあるいまは状況が変わりました。公からの支援が少なくなり、将来的な増加もほとんど期待できなくなっています。

  それならそれで、民間でなんとかするしかありません。民間レベルの地域振興というと、地域の財産である特産品や名所、あるいは独自の文化などを利用する方法が考えられます。地域経済を手っ取り早く活性化させるには、これらを使って既存の企業が新たな事業創造を行ったり、新規事業を柱とする起業が活発になるのが一番です。
  地域にある財産を有効利用して、人々が収入を得られる職場を増やすのです。いまあるものを使って地域経済に活力を与えられるのですから、うまくいけばこれほどいい地域振興策はありません。

  もちろん、これは簡単なことではありません。私は地域振興のための活動として、新潟にゆかりのある人、あるいは新潟と関わりのあるビジネスの支援をしています。その活動を通じて、いろんな人たちの奮闘ぶりを見ていますが、「これはいける」と思えるビジネスでも必ず紆余曲折があります。
  私の印象でいうと、10の新たなビジネスを始めた場合、比較的早く形になるのはそのうちのせいぜい1ないし2です。残りの8はすべてが早々にダメになることはありませんが、「かろうじて事業継続が可能」という状態が長く続くことは珍しくありません。

  新たな挑戦を形にするのは、このようにかなり困難なことであるのが現実です。そこで私の場合は、この傾向を考慮してポートフォリオ型の起業の支援を心がけています。
  ポートフォリオというのは、投資先を分散することでリスクも分散させ、すべての投資が同時にダメになるのを回避するための方法です。この発想で私は同時に多くの起業を支援し、全体として見たときに地域振興のための支援活動が概ね成功に導けるようにしているのです。

  仮に比較的早く形にできるのが10のうちの1ないし2であっても、地域はそれなりの恩恵を受けることができます。その1ないし2の経営者が、自分のところで出た利益の一部を他の支援に回せば、まだ結果が出せていない8ないし9はそのまま挑戦を継続させることができます。
  いまはまだ結果が出ていない場合でも、問題点をクリアにし、それを踏まえてやり方を変えれば状況が好転する可能性は高まります。そのためには挑戦を継続することが不可欠で、それが無理なくできるのがこの支援方法のメリットです。

  このようにうまくいったら今度はその人が支援を行う側にまわることで、成功の輪をどんどん広げていくというのが私が考えている地域振興作戦です。
  実際、私は支援を行うときに必ず相手とそのような約束をしているので、私のまわりでは起業支援の輪がどんどん拡大しています。

  新たなことに挑戦するのは素晴らしいことです。私は事業家として、これまで自分でいろんなことに挑戦し、ワクワクした気分を味わってきました。もちろん、挑戦には困難がつきものなので、自分の思いどおりにいかなかったことはこれまでに何度もあります。
  しかし、私はそれを悪いことだと思っていません。そもそも私の辞書には「失敗」という言葉がないのです。人が成長するためには様々な経験が必要で、失敗はその一つのプロセスにすぎません。これが私の持論で、いいことであろうと悪いことであろうと、人を成長させるのに必要なことはどんどん経験したほうがいいと考えているのです。
  私のような考えの持ち主は、日本では少数派になるようです。日本の社会は、昔から失敗に対してあまり寛容ではありませんでした。起業の世界ではその傾向が顕著です。連帯責任社会である日本では、起業における失敗のツケは本人だけでなく親族にまで及ぶことが往々にしてあるので、これは当然といえば当然です。

  新たなことへの挑戦は、このように相応のリスクを伴います。それが嫌で「自分は新しい試みに積極的ではない」という人は多いようです。
  地方ではとくに挑戦より安定を求める傾向が強くあります。一番人気の職業が公務員という話をよく耳にしますが、これはたいへん残念なことです。

  アメリカでは優秀な人ほど起業を目指す傾向があります。また、成長著しい中国をはじめとするアジアでも、人々の間で新たな挑戦を積極的に行う気運が高まっています。これは私たち日本人もぜひ見習いたい姿勢です。
  とはいえ、日本でも明治維新や戦後の復興の時期には、多くの起業家が登場して様々な事業を立ち上げたという事実があります。そして、これが現代の日本の礎になっています。そう考えると、日本人がもともと新たなことに挑戦するエネルギーや力を持ち合わせていないとはいえないはずです。

池田 弘