【コラム第40回】 事業創造大学院大学 湯川学長に願いを託して

 事業創造大学院大学は、今年で三年目を迎え、この春に初めての修了生を輩出いたしました。具体的に起業に向け準備を進めている方、あるいはすでに法人登記を終え世の中へ飛び出していく時機を待つ方、また現業に学んだことを活かし新たな取り組みを始めている方、それぞれの形で新たなスタートを切っています。意欲があればいつでも利用可能なフォロー体制も整えていますし、また起業後は異業種交流会501において意を同じくする同志とともに成長・発展していくことも可能です。今後の彼らの頑張りに期待し見守り続けていきたいと思っています。

 さて、この春から、この事業創造大学院大学学長に前副学長の湯川真人先生にご就任いただきました。湯川学長は新潟ご出身で、一言でいうならば日本金融界の資産運用の先駆者、日本でもトップクラスのご経験と実績をお持ちの方です。
 新潟生まれで新潟高等学校卒業までを新潟で過ごされました。高校へは愛宕神社境内地を通って通学されていたということで、既にこの頃すれ違っていたかもしれません。その高校時代にAFSで米国留学を経験され、東京大学教養学部教養学科卒業後㈱日本興業銀行入行。入社後三年で米国に行費留学を経験され、その後も要職を歴任される中、調査のため視察した米国と欧州でその当時日本の金融界にはなかった資産運用を目の当たりにし、「いずれ日本にも必要になる時代が来る」ということを確信されました。その後資産運用の手腕を買われ、J.Pモルガン信託銀行㈱取締役、興銀第一ライフアセットマネジメント㈱常務取締役を経て、シティトラスト信託銀行㈱代表取締役社長をされていた頃、ご縁あってお会いすることができました。
 私の新潟への思いをお話すると、まだ形もなかった事業創造大学院大学に関わっていただくことをご快諾していただけました。そしてその後開学までの短からぬ道のりの中で、実質的な準備に携わってくださいました。

 専門職を育成する実学志向の専門職大学院は制度がスタートしてから日が浅く、申請に決まりごとはもちろんありましたが、包括的に明示されている部分もありました。そのため、今までいくつもの専門学校、高等学校、新潟医療福祉大などを開学させてきたNSGグループでも、文部科学大臣から開学の認可をいただくのにずいぶん苦労いたしました。
 私は、起業家教育とは何かと考えたとき、現実的にすぐ事業創造をスタートできる人材を育成するために何を施せばいいのか、それが満たされている大学院であらねばならない、と考えていました。イメージとしては、起業・事業創造を研究する「学問」をするところというよりは、もっと実践を通して事業創造を体感しながら、身につけていけるような教育、つまり実際に経済界で活躍している現役または、現役により近い指導者から直接指導を受けることが可能なカリキュラムを持った大学院を。
 しかし文部科学省の考える専門職育成とはいささか違ったようで指導陣の中に博士号取得者が少ないことや、あまりに実践に偏ったカリキュラムを指摘され、私の考える専門職大学院には、まるで論理がないかのように解釈されました。なかなか文部科学省に理解が得られないなか、現教授陣の数人の先生らとともに、(幾度も幾度も)何度も東京でカリキュラム作りについての話し合いが行われましたが、湯川学長は常にリードしてくださり、文部科学省が思い描く専門職育成のイメージと私が考える起業家教育を結びつけて大学院の骨格を構築することに尽力してくださいました。時にはこちらの考えを文部科学省にわかっていただくために相当強気で働きかけてもくださいました。このようなことを経てようやく今の形での事業創造大学院大学は開学にこぎつけましたこと、湯川学長には、心から感謝する次第です。

 ところで、湯川学長にこのたび学長就任していただくに当たり、私はお願いをふたつしました。 
 ひとつは、事業創造大学院大学を世界のトップクラスの事業創造の大学院に成長させていただきたいということ。これは、世界の金融、資金運用に精通している湯川学長だからこそお願いできることです。
 新潟を活性化し、日本一の都市、世界一の都市にするためには、『新潟から日本へ、新潟から世界に』羽ばたける事業がこの新潟からひとつでも多く創造されることが必要です。そして、このようなトップレベルの事業創造には、本格的な金融、資金運用の概念が不可欠。湯川学長の下、世界に通用する視点を持つ人材の育成も不可能ではなくなると確信しております。現在、それに対応し次年度からのカリキュラムをより実践面でもアカデミックな面でも充実するよう見直しを行っていただいており、今後の進化を私も楽しみにしているところです。

 お願いのもうひとつは、トップレベルの資産運用のプロという立場から見た視点で、異業種交流会501に、起業家の質が高まるような起業家精神の根本となる息吹をなんとか吹き込んでほしいということ。
 私は、長年多くの事業に携わってきて、また多くの経営者の方々に接してきて、事業を創造し成功させるためには、絶対的で強烈な『意思』や断固たる『確信』が必要だと感じています。
 それぞれのメンバーの事業がより成長していくためにも、またその力を結集させて新潟を活性化し、日本一の都市、世界一の都市にするためにも、501のメンバーが共有し目指していくような強烈な核となる起業家理念のようなものが改めて必要であると感じています。
 湯川学長も、終身雇用が当たり前の時代に転職を決意された際、「いずれ近い将来日本の金融界にも資産運用の概念が当たり前になる」という揺るぎない『確信』があったそうです。だから迷いも不安もなく決断され、その後の人生をご自身で切り開かれました。
 幸い、湯川学長は、一橋大学大学院で近世思想史を学ばれており(学長職に就かれてからは申し訳ないことに休学していただいています。)、朱子学など儒学にも詳しくていらっしゃるようですから、異業種交流会501が志していくのにふさわしい理念確立に力を貸してくれるのではないかと期待するところです。

 先日、私は、501異業種交流会定例会での湯川学長との対談の席で質問をひとつしてみました。ここ最近日本においては地方の自立が叫ばれるなか、この地方都市新潟の企業について、本音でどう感じていらっしゃるかについて。
 湯川学長は、今年度県内の企業を新潟、長岡を中心に三十社強、訪問されたそうです。その際新潟県に素晴らしい企業がたくさんあることを知り感銘を受けたそうです。従来世界経済の潮流が国内の地方都市流れていくには、ゆったりとした時間がかかっていたましたが、ここ1,2年はスピードが速くなってきています。それに対応していくために、様々な工夫をもってなんとか解決しようとする凄い姿勢・パワーが新潟の企業には見られるそうです。もちろん各業種で直面する内容や解決する方法は(もちろん)それぞれ違いますが、移動可能な範囲内にある地域の産業が、この凄いパワーを結集する、つまりある程度共通点を持ってクラスター化する、“協働と競争”を基本概念として有機的に力を結集すれば、各企業が相互に作用しあって新たな付加価値を生んでくるであろうし、必ずやそのようなシーズ(seeds : 種)はあるように思う、とのことでした。
 企業を見る確かな目をもつ日本のトップレベルの方が、興味をもってシーズがあるといっている、これは本当にチャンスがあるということだろうし、それは我が新潟にとってとても勇気が出る言葉だと思いました。

 いつしか、この新潟が日本一、世界一の都市になる頃、この大学院から事業創造した企業が新潟の街中に溢れかえり活気の源になっていることを夢みてやみません。湯川学長率いる三年目の事業創造大学院大学、更なる進化を遂げていくことを確信しております。

事業創造大学院大学 http://www.jigyo.ac.jp/

池田 弘