【コラム第16回】 ワールドカップ考

 「サッカーとはアイデンティティーの確認の場である」
 Jリーグ理事としてドイツワールドカップを視察してまいりました。髪の毛の色、目の色、言葉、ファッション、それぞれが異なる様々な人間が世界中から集まった熱気の中で改めて思ったことがこれです。つまりはその国の国民としてのアイデンティティーを、気持ちを一つにして応援することで確認する。これが、サッカーがグローバルなスポーツ足り得ている理由なのではないかということです。
 サッカー強国の中でも政治的にあるいは経済的に極めて厳しい状況にある国はたくさんあります。一度は国家破綻したアルゼンチンしかり、アフリカの出場国の中にも不安定な政情や貧困から抜け出せない国があります。かつてのユーゴスラビアもそうでした。国が分裂の危機にある中、ユーゴスラビアを90年イタリア大会でベスト8に導いたのがあのオシム監督でした。
 そうした国でも、いやそうした国であるからこそサッカーを通じて祖国を感じ国民としてのアイデンティティーを確認する人々がたくさんいるのだと思います。確かにサッカーはそんな状況を政治的には、あるいは経済的には救えないかもしれません。しかし形になったものにだけ真実があるのではないと思います。
 私は神主も努めさせていただいております。目に見えないものの力というものを信じています。表面に現れる現象だけでなくその背後にあるものを見なければ本質は見えてこないのではないでしょうか。サッカーにはアイデンティティーを確認させる大きな力があるのです。
 サッカーは血を流さない戦争であると言う表現があります。そこでぶつけあうのは極論すればそれぞれの国民の世界観です。世界観が生んだ戦術であり文化をぶつけあって戦うのです。個性の違う国と国がぶつかりあうWカップで、世界の人たちは地球上の人間たちの多様性を、そして祖国の文化や国民性を再確認するのだと思います。
 私がアルビレックス新潟の経営をお引き受けする際に考えたコンセプトの一つが「人が集う」というものでした。アルビレックス新潟の試合には多くの方が集い、心を一つにして応援してくださいます。ビッグスワンで新潟の人間としてのアイデンティティーを再確認されることもあるのではないでしょうか。
 日本代表の新監督にオシム氏が正式に決まりました。オシム新監督は「日本人化」を代表チームで図るとしています。ウイットに富み、本質を突く素晴らしい発言です。サッカーとはそれぞれの国や地域の文化が作り上げるものです。オシム新監督は「他国の真似をしても追いつけるどころか引き離されるだけだ」と言っています。あの多民族国家ユーゴスラビアの代表チームを90年Wカップで大活躍させ、世界中の注目と尊敬を集めた手腕と哲学を日本代表でも是非発揮して欲しいと思います。
 そしてもう一つ楽しみなのがオシム語録です。オシム氏の言葉は我々にイメージを一言で共有させる力があります。どんな示唆に富んだ語録を聞かせてくれるか楽しみです。きっと日本のサッカーのあるべき姿を言葉でも示してくれることでしょう。 
 サッカーも文化も個性の多様性が豊かにしてくれるものです。サッカーファンはそこのところを良くわかっています。彼らが賞賛するのはNo1になったチームだけではありません。今大会で言えば、ガーナやオランダやオーストラリアなどが個性を大事にした戦い方で注目と尊敬を集めました。是非日本代表もそんなチームに成長してくれればと願っています。そしてJリーグのそれぞれのチームも、もちろんアルビレックス新潟も。
 「サッカーとはアイデンティティーの確認の場である」ドイツの地で私が感じたことを、新潟の街から改めて皆さんにお伝えして終わりたいと思います。 

池田 弘