【コラム第83回】 大局を読む~日本の植民地化を救った鎖国政策

 江戸時代の鎖国については、どちらかと言うとネガティブなイメージでとらえている向きが多いと思います。すなわち「世界の発展から取り残された要因」「世界の孤児になってしまった政策」などと言うものです。
 しかし私は、江戸幕府の取った鎖国政策は、日本の植民地化を防ぐという大きな役割を果たしたと考えています。

 大航海時代以降、西欧諸国により進められた植民地政策で、アジアのほとんどの国が植民地となりました。中国もアヘン戦争に象徴されるように、大変悲惨な状況になってしまったわけです。
 私はその中で結果的にキリスト教が、現地の住民の意識を変える目的で、戦略的に使われたと考えています。キリスト教徒のパーセンテージを増やす事が、植民地化政策の上で重要なポイントだったはずで、キリスト教の関係者が先兵の役割を果たすことになったのだと思います。
 そんな世界情勢の中で、日本が植民地化を免れて明治を迎え発展する事ができたのは、鎖国政策が大きな役割を果たしたと思います。

 多神教で多様な価値を認める日本の神道、各宗派に分かれて行った日本の仏教、そして一神教のキリスト教との間には考え方に大きな違いがありました。しかも当時、日本に伝えられたキリスト教は、宗教改革以前の中世的要素を残した宗教でした。宗教裁判や魔女狩り、そんなイメージの宗教です。
 もし戦国時代に日本にやってきたキリスト教を、江戸幕府が受け入れて公認していたら、その後の日本の様相は大きく変わったものになっていたでしょう。場合によっては植民地となっていた可能性も否定できないと思います。

 先日NHKの「歴史ヒストリア」という番組を拝見しました。「美しきキリシタンと教会の物語」というタイトルで、長崎のキリシタンの話を取り上げていました。
 戦国時代に長崎に伝えられたキリスト教は、鎖国と「キリスト教禁止令」にも関わらず、長崎の地で200年以上に渡り、「隠れキリシタン」として、親から子へ代々伝えられてきました。
 そして1865年に、大浦天主堂において、ある地元民から「信仰」を告白された西洋人の神父が、「信徒発見」として世界に打電した事を描いていました。

 確かに番組で描いた事は事実でしょうし、ある意味奇跡的な出来事です。しかし裏側から見れば、かくも強力に信者の信仰を得るキリスト教を、幕府が危険視したのは至極当然でもあると思います。
 かりに信仰の自由を保証したらどうなっていたでしょう?長崎のケースが証明しているような浸透力で、キリスト教は広まっていったでしょう。
 それが何をもたらすか?恐らく他のアジアの国々でもそうしたように、西欧諸国は、キリスト教を利用した植民地化政策を取ったと思います。
 江戸幕府は鎖国政策を取る事で、未然にそれを防いだのです。

 そしてある一つの歴史的事実が、アジア人のキリスト教徒に対する西欧人の意識を物語っているように思えます。それは長崎への原爆投下です。
 キリスト教徒におけるアジアの聖地のひとつとも言える長崎に原爆が投下された事実、この事実はキリスト教を政治的に利用してきた西欧の論理を如実に物語っているように思えます。

 何故、日本と言う国が鎖国の時代を経て明治維新を成し遂げ、世界有数の経済大国たりえるまでに至ったのか?
 NHKも他のメディアも、センチメンタルに隠れキリシタンの事を描くだけでなく、鎖国を決断した江戸幕府の姿勢を出発点に、大きな歴史的視点から日本の歴史を描く番組を作って欲しいものだと思います。

池田 弘