【コラム第4回】起業家育成の経営大学院構想

 現在、来春に向けて経営大学院の設立準備をしています。
 日本経済は、1980年代、高度成長期から安定成長期へと移行していましたが、成熟経済下でも、いかにして経済社会、企業社会のダイナミズムを維持するかについて十分な検討と準備がなされないまま、バブル経済に遭遇しました。バブル崩壊後、いわゆる「失われた10余年」を経て、今改めて日本経済再生の方策が求められています。

 日本経済を取り巻く環境は、労働人口の高齢化による潜在成長力の鈍化や経済のグローバル化などによって、かつてとは大きく変質してきています。新しい枠組を変えつつある経済構造の中で企業活動の活力を取り戻すことが、わが国経済の緊急の課題になっています。それには、既存のビジネスモデルに依存しない新しい産業や事業を創出することが必要です。新たな雇用を創出し、既存の企業にも新たな市場やビジネスチャンスを提供し、お互いに刺激しあいながら相乗的に経済が循環、発展するからです。

 わが国における新産業、新事業を創出するうえで、ベンチャーが果たす役割が大きいのはいうまでもないことですが、既存企業においても、成長、発展するためには、新規事業開発を進め、新たなビジネスモデルを構築し事業改革を推し進めることが不可欠です。

 こうした経済社会の状況を鑑み、長年教育事業に取り組んできた経済人として何ができるかを考えたとき、明日の日本を担う有益な人材を養い、起業家や企業内事業創出者を育成する教育を行うことが使命だと感じました。
 また、近年起業家支援にも力を注いできての実感ですが、まだまだ日本では起業家の育つ環境が整備されておらず、「起業がすばらしい。」という考えが浸透していないのも現実です。若者が「起業する。」と言った途端、親を含む親類縁者からは「そんな危険なことは辞めろ。」と足止めを食らいます。それは、起業して失敗した場合、資金調達時の保証人制度などを含め、周囲へ及ぶ影響が否めない厳しい側面があるからです。起業に対し周囲の理解を得られるように準備ができる起業家教育の仕組みの必要性を常々感じてきました。

 経営大学院という教育環境の提供によって、多くの人々が創業し、自分のやりたいことでいきいきと人生を送ることが当たり前になると、起業は就職に並ぶ、いえ、就職を超える職業選択の1つになるでしょう。そのような風土が日本にも定着していくことが重要です。

 この大学院は、社会経験を有する社会人を主たる対象に、職業を持ったまま通学できるよう夜間及び土曜日に授業を開講する予定です。2年制で1学年定員100名。対象は、地域発展を願う地元企業からの起業派遣学生のほか、地元及び隣接各県、さらに首都圏はもとより全国からの起業意欲に溢れた人々、そしてスタッフとして起業をサポートする立場を目指す人々です。起業にとって、より有益で実践的なカリキュラムを編成します。奨学金制度のほか、優秀な事業計画には専用のファンドからの投資も考えており、ひとりでも多くのやる気ある人材に具体的な起業のチャンスを与えたいと思っています。

 私は「異業種交流会501」という起業家支援の会の会長をしています。株式公開を目指して交流し、発展することを目的とした会です。かつて近代日本の経済界を支えた渋沢栄一は、一生涯で500社の会社設立に関与したといわれています。新潟でこれを超える新規企業を作るための支援をしたいと考え、「異業種交流会501」と名付けました。夢のようなことですが、新潟に株式公開企業が501社できれば、地域経済が潤い、街が活性化していきます。
 新潟を日本一、世界一発展した都市にしたいというのが私のライフワークです。この経営大学院から起業家が続々と輩出され、新潟はもとより日本の経済発展に寄与することを心から楽しみにしています。

池田 弘